掌編 リピート・ガール・アムネジアⅱ(彼女)

私は繰り返している。この高校3年生の夏は268回目だ。なぜ繰り返しているのかはわからない。アインシュタインが1世紀考え続けたとしてもきっとわからないだろう。私の繰り返しは科学とか因果を超越したところで行われてるから。こんなこと考えるなら草むしりでもしてたほうがよっぽど有意義だな、なんて思う。
繰り返すたび、私の高校の3年間は相対的に短くなる。これ、ジャネーの法則って言うんだよ、知ってる?ってあの人に聞いてみたけど当然のように知ってた。何回高校生を繰り返してもあの人には敵わない。だから一緒にいるのかもしれない。
私は最近物忘れが多くなってきた。「物忘れ」は適切な表現じゃないかもしれない。知らないことが増えたのだ。記憶のプロセスを逆走してしまっているのかな。それとも繰り返しているうちに記憶が擦り切れていっているのかな。そうやって考えるけど、やっぱりわからない。私は何度目でもバカなままだ。
今日もあの人といつものスタバに行った。あの人はコーヒーを頼むけど、私はフラペチーノにしてしまう。あの人は勉強するけど、私はお気に入りの本を読む。あの人はいろんなことを知っていくけど、私は忘れていく。切なくなって空になったフラペチーノのカップを眺めた。
そういえば次の抜き打ちテストはいつだろう。前回はひどい点数を取ってしまって彼に呆れられてしまった。前もって勉強しとかないと。私はため息をついてあの人にその話をした。あの人はなんだかぎこちない笑顔をした。
私は何度繰り返してもこの人のことは忘れなかったし、これからも忘れないんだろうな、とぼんやり思った。