掌編 猿

僕は意味もなく外に出ようと思った少し喉が渇いていて家の近くの自販機まで行こうと

思った。

 

午前二時前の外の空気はさらりとしていてまるで夏の夜とは違う、ほんの少し

死の匂いがする僕はそんな空気を肺に満たして封をするそして吐き出す。

 

髪が伸びっぱなしで秩序を失っている踊るように絡まりそして混沌僕はまあいいかなんて思うだって飲み物を買いに行くだけだからサって言い訳をする誰も聞いちゃいないのに。

 

僕は梨の味がする水を自販機で

買った100円だった。

 

黒い街を僕は歩くこんな時間でも人がいることに少し

驚く。

 

彼岸花を見つけたそれはコンクリートがかさぶたのように捲れたところから勢いよく飛び出しているもうそんな季節だったことを

思い出すそして彼岸花の毒的な赤さにまた

驚く。

 

そのあと僕はまた街を歩くそして猿に会う。

 

猿は黒く尻尾が少し長く大きさは膝くらいの丈で目は窪んで目玉は無いがこちらをぢッと見つめていることがわかる。

 

ア と僕は声を漏らすその猿に会うのは初めてじゃないが何回目でも

慣れないその目は本当に黒い色をしているんだまるで人の寄り付かない深井戸のような。

 

僕は猿との会話を

試みる気が触れたわけじゃァないこいつとは一度話してみたい否話すべきと直感的に

感じていた。

 

「君はどこに住んでいるの?」

僕は尋ねるまずは住んでいる場所を訊くのが初対面の人と話すときに便利だと何かの本で読んだようなアレでもこいつは猿だ人じゃない。

 

「住所は無い」

 

猿は枯葉の擦れるような声で言うまるでカフカの短編に出てくる生き物みたいだ名前はなんだったかなああそうオドラデグ。

 

猿に最初に会った時はひどく怖かったものだが何故かもうなにも感じないそれを猿に

伝えた。

 

「それはお前が老いたからだ」

 

猿は言う何を言うんだ僕はまだ十九で世間一般には完全に若い青いと見なされる歳だ。

 

猿は言う

「お前は"生活"に埋没して目を覆っている」

 

猿のくせして偉そうなことを言うもんだと僕は思う猿は続けて言う

「まるで自分はなんの制限もされていない、ましてどこにでも行けるなんて馬鹿なこと思うなよ」

 

猿はいつのまにか火のついた蝋燭を手に持っていて

笑ったそれもとても不気味な笑い方で身体を揺らしている蝋燭の火もそれに合わせて揺れる。

 

「現実はあとこれだけ」

 

猿は蝋燭に目を向けまた笑う嫌な笑い方だ。

 

 

僕はなんだか怖くなった周りの闇が深まっているようなそんな

錯覚いや本当かもしれない。

 

僕は思いっきり猿を蹴り上げようとするしかし僕の脚は猿をすり抜け空を切りバランスを崩して少しぐらつく。

 

猿は夜の闇に溶けた僕はため息をつくそして

 

動悸が速くなる。